
看護者発―痛みへの挑戦 【売り切れ】絶版
- 定価 3,520円(税込)
- 編著:深井 喜代子(岡山大学医学部保健学科教授)
- A4・160ページ・並製
- 発行年月:2004年05月
- ISBN 978-4-89269-475-2
- ※記載されている所属・肩書は、出版当時のものです。
生理学者から身を転じて看護学を学び,筆者が看護の世界で教育・研究者として再出発して,平成16年春ではや11年が経ちます。
この間,教育科目としては解剖学,生理学,基礎看護学,研究方法論を担当してきましたが,研究では“便秘constipation”と“痛みpain”のケアに関するエビデンスを追究してきました。本書の中でも述べていますが,筆者は生理学者としては自律神経中枢機構,とくに排便反射中枢の解析を専門にしていましたので,看護学領域では当然のように“便秘”という研究テーマを選択しました。中枢神経系と平滑筋を中心とした生理学の専門知識をもっていたことは,新天地での,実践を意識した基礎研究(筆者はこれを看護生理学的アプローチと呼んでいます)を手掛けるには大変好都合でした。
そして,もう一つのライフワークであり,本書のテーマでもある“痛み”については,実は看護学を学び(高知女子大学での4年間),実践にたずさわる(東海大学病院での3年間)うちに,半ば義務にも近い感覚で選択しました。なぜなら,学問としての看護学にも,そして看護の実践の場にも「人の痛みhuman pain」が溢れていたからです。さらに,看護学研究者による痛みのケアに関する研究が大変遅れていた(論文が非常に少ない)のもその理由でした。実践の場で痛みをもつ人々に最も深くかかわっているはずの看護者が,なぜ痛みのケアの研究に取り組まないのだろうかと不思議な気がしたものです。筆者は看護学の扉を叩く時点で既に科学者でしたから,エビデンスなくして提供する治療や看護はありえないという潜在的な考えをもっていたのかもしれません。痛みの領域に留まらず,研究資産不足の傾向は,1990年頃の看護学界において慢性的にみられたようです。だからこそ,せめて痛みの看護学研究に生涯をかけて取り組み,痛みのケアのエビデンスを産生したい,痛みをもつ人々とともに痛みに挑戦したい,と非力ながら思ったのでした。
本書は,そうした筆者の取り組みにいち早く賛同くださったへるす出版の後押しで完成しました。本書には『臨牀看護』(へるす出版)に連載された計14本と,『EB NURSING創刊号』(中山書店)に掲載された論文,そして新たに書き下ろした3本の計18本の論文を集めました。この中には,痛みに関する基礎的な知識(解説),痛み研究の概観と動向(総説),そして痛みに関する研究論文(原著と事例,筆者とその共同研究者による近年の数編)が含まれています。本書が実践における痛みのケアに少しでも役立ち,そして,看護界における最近の痛みとそのケアに関する研究の現状と発展の糸口をつかんでいただければ幸甚です。さらに,本書が看護における痛み研究の刺激剤になることを希望してやみません。
本書を,痛みをもつすべての人々と,痛みのケアと研究にたずさわるすべての看護者の方々に捧げます。
「序にかえて」より
序 章
1. 痛みのケアのキー・パーソン
臨床体験で知った痛みの看護の重要性/看護者は痛みにどの程度関心をもっているか/かつて痛みのケアの基本は家庭にあった/他者の痛みに共感できるか
総論;解説
2. 痛みを解剖する─痛みの多次元モデル
痛みのロープ牽引モデル/痛みの生理学的理解/侵害受容と痛み/痛みを修飾する状況要因と心理的要素/言動が痛みの理解の最大の手がかり/痛みの包括的理解/心因性の痛みの問題
3. 痛みを測る─痛みはどこまでわかるか
測定と評価の違い/現象を適正に測るとはどういうことか;便秘と痛みの違い /痛みを測る方法:痛みの測定用具/痛みの測定用具の査定
4. 痛みの学説─ゲート・コントロール説の誤信と過信
痛みの看護と研究的態度/ゲート・コントロール説の虚と実/看護(学)は他 の学問領域の既成理論をどう扱うべきか/看護(学)が学問であるためには
5. 海外文献にみる痛みの看護学研究の最近の動向
実験研究デザインによる研究/調査研究デザインによる研究/その他のデザインによる研究
6. わが国の痛みの看護学研究の現状と展望
わが国の痛みに関する看護学領域の研究/痛みの研究の限界への挑戦/研究の継続と学問への寄与ということ
7. 疼痛ケアとEBN
医療に求められる“Evidence-Based”の概念/EBMの本質と看護の現状/EBNの実践モデル/痛みのケアにおけるEBNの試み/EBN実現の問題点/研究活用の志向/看護独自のEBNを
各論;解説
8. 月経痛を探究する
月経痛の定義/月経痛の特徴と原因/痛みの発生メカニズム/月経痛に影響を及ぼす諸因子/月経痛の治療とケア
9. 腰痛を探究する
腰痛発生の原因/日常生活と腰痛/腰痛と心理的要素/腰痛に関する研究
10. 頭痛を探究する
頭痛とは/頭痛の疫学的特徴/頭痛への多次元的アプローチ/慢性頭痛をもつ事例
研究;原著
11. 芳香がヒトの痛みの感受性に及ぼす影響
緒言/研究方法/実験結果/考察
12. 実験的疼痛に対するリドカインの効果─看護的除痛法との比較
緒言/実験方法/実験結果/考察
研究;事例研究
13. 癌性疼痛患者の痛みの評価と緩和ケア
緒言/研究方法/研究成果/考察
14. リハビリテーション医療領域の痛みのある患者
事例紹介/慢性関節リウマチに対する理学療法の役割/慢性関節リウマチに対する作業療法の役割
15. 疼痛管理が困難であった食道癌患者の看護
事例紹介/疼痛管理/考察/事例で得た知見の臨床への適用
16. 痛みが完全に消失することを望まなかった肺癌患者にとっての痛みの意味
事例紹介/事例の痛みの経過と意味/考察
17. 癌性疼痛に対するマッサージ,指圧または鎮痛ケア組み合わせの効果
研究方法/研究結果/考察/結論
18. 眼科疾患における痛み─網膜復位術による限界を超えた痛み体験
事例紹介および痛みの観察方法/眼科手術の痛みの実態/考察