代表取締役挨拶

私たちが提供するもの〜創立記念日におもう

 

ベストセラー作家の藤原正彦氏(数学者・お茶の水女子大名誉教授)は近著「国家と教養」の中で次のように述べています。

以前は撮影した写真のアルバムをよく見ていたが、デジカメの普及によって撮った写真を後から見ることがめっきり少なくなった。機械の中の写真はアルバムの中のものに比べてはるかに遠い存在となる。同様のことは活字本と電子本についても言える、と以下のように論旨を展開します。

『すでに読んだ活字本が本棚に並んでいれば、ふと目にした時に懐かしくて手にとって見たりします。(中略)一方、電子本では(中略)ぼんやり畳に寝転んでいる時に目に触れることはありません。(中略)機械の中の本は時間が経つにつれ未だ読んだことのない本とさして違わないものになります。(中略)英語に「out of sight, out of mind」という諺があります。「去る者は日々に疎し」と意訳されていますが、直訳すれば「見えなくなれば忘れられる」ということです』

記憶するという人間の営みのなかにおける出版物(本)の果たす役割について核心を突いていると思います。出版物の存在意義がここにあります。

現在では、SNSなどの普及により、誰でも気軽に情報が発信できるようになりました。同時に、それら情報の収集・抽出はもちろん、その内容の比較などまでも容易にできるようになっています。しかし、私たちが出版物を通じて提供している情報は単なる「情報」ではなく、私たち出版社の長年にわたる実績=斯界の第一人者らの信頼に基づく連携=により唯一無二の「信頼性」という特徴(オーソライズと表現されるもの)を保持しています。出版社の存在意義がここにあります。情報が氾濫している時代だからこそ、一冊の本が持つ信頼性・確実性は、他の媒体とは一線を画しているといえます。「この出版社のものならば」という発行物への信頼は、出版社のブランド力ともいえるものであると自負しております。この点は他社との差別化を図る意味でも、非常に意義があります。

出版物を別の視点から見ますと、企画時点で「最新の情報提供」を謳っても、専門家集団のオーソライズ作業を経ることにより信頼性・確実性は高まるものの「速報性やタイムリーであること」が失われてしまうことは否定できません。信頼性・確実性には裏付け時間が必要だからです。この大きな欠点を補う手段を模索する過程で「いかに最新情報のup dateを実現するか」という課題解決の糸口も浮上してきました。
また一方で、教科書といわれるものの内容は最新の知見や新しい治療の紹介などを網羅したものではなくスタンダードとなったもの、つまり一定の期間を経て評価されたものが記述されている必要があります。さらに、医療従事者は最新の情報を常に求めていながら、基本的に医療提供の仕方はコンサバティブで、例えば新薬や新しい治療器具が開発され承認されても、その普及には時間を要します。このため、医学は「日進月歩」といわれながら5年以上前に発行された書籍でも書店店頭に並べられているという事実もあります。このことを出版物の寿命と採算性の観点で捉えますと発行・販売する側からは有難いことではありますが、しっかりとした態勢を構築すべきであると考えます。
以上のような課題に取り組んでいく覚悟ですが、「up-to-date」と「up date」を前面に打ち出した情報提供のコンテンツ、さらには原則として発行後5年以上経過した書籍の販売方法と対応を提案させていただくつもりです。
近年の出版不況のなかにありながらも、専門書は皆様のご支援により何とか生き延びております。現状を憂えるのではなく、ご支援いただいております皆様のご期待に沿える会社として社員一同励んで参りますので引き続きよろしくお願い申し上げる次第です。

2019年2月

代表取締役社長 佐藤 枢

ページの先頭へ ▲